チヨちゃんの夢

今回は、ほろほろと思ったことを少し。


化猫(大正版)で、たたみかけるように示された「関係者たち」の心理。
どれも、なんだか身に覚えもあるような…。
うすらさむい人間の本音を、垣間見せられたのですが。


「アアー、あのとき、どうして断っちゃったんだろうなァー…」


これは「大詰め」での、チヨちゃんのセリフ。
スーツにすり寄る、大胆なミニドレスが映し出されます。
背後の窓には、今しも記事をあげんとする市川節子の姿。お約束ですね。
黄色(きっとサテン地)にバラをあしらったミニドレスは、当然「夜のお仕事用」の装いです。カンカン・カフェの丸窓が暗くなりカーテンが閉じるので、夜の時間帯であるとわかります。


ところで、「化猫」2の幕に出てきた回想シーンで、チヨちゃんはチャイニーズ風のトップに、赤いキュロットかパンタロンを着ています。
同僚の女性?も同じようなシルエットの襟で、赤いハートのデザインからいっても、どうやらカフェの制服みたいです。
この姿でチヨは、門脇刑事の事情聴取に答えています。デカが来た時間は不明ながらも、門脇が「山口ハル」宅を訪れたときの雰囲気からして、夜に来るなどという手間はかけず、おそらくは昼間ふつうに来たと思われます。
チヨ自身はいつ、市川節子を見かけたのでしょう。これは昼夜、どちらでもアリそうです。いずれにせよ話し相手がいたでしょう。チヨが聞いたという、節子の「死んじゃおっかな…」なんて戯言は、酒の席でもないと出てきそうにない気もしますが、それはおいといて。


ふたつの「制服」。チヨは昼夜、どちらも働いている(あるいは働いていた)んですよね。


チヨにとって、「カフェで働くことは希望」でした。
たいていのヒトは、昼間働くことからはじめます。
最初から、芸能的世界にぽーんと飛び込む人も、少なからずいるでしょうが、そうして刺激や稼ぎを体験したら、そこから昼間の仕事に就きなおすという人は(年齢的なものもありますが)さらに少ないはずです。
すると、やはりチヨも、昼のウェイトレスからはじめたのでしょう。


チヨはかわいい制服に身を包んで、カフェでウェイトレスを続けるうちに「女優にならないか」と声をかけられます。わざわざ歌唱力をみて「ひばりちゃんなみだよ」なんて誉めてくれるヒトもいたり。最初はとてもそんな、と謙遜して断っていましたが、2度3度と声がかかるうちに、だんだん考えもかわってきます。
女給仕事なんて単調で、給料も地位も上がらずつまらないばかり*1の仕事です。最高にステキなモガも現れて、チヨの気持ちを煽ります。ひょっとしたら…。


とはいえ、一度断った相手から、再び誘われる事はまずありません。年齢もあがるし、焦りが生まれます。
おカネか、待遇の不満か、はたまた女優の夢にとりつかれてか、彼女は仕事を増やし(または変え)ます。ドレスをまとって、さらなるヒトの目に触れ、チャンスを得るために…


カフェで働き、外部のシゲキにふれるうちに変わっていった、チヨの心理が、ひとつのセリフから、いっぱいこぼれてくるようです。

*1:これはひとつの例ですよ。雇われ仕事はみな、こうした側面を持っています