解説

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☆☆☆ 短編小説『凧』もくじページへ ☆☆☆ (4/6一部修正)




╋╋・‥… 長い解説 …‥・╋╋



このたびは小説を読んでくださってありがとうございました。
以下は解説です。というか、言い訳の一部です。


モノノ怪の「解」をまとめていた頃から書きたい書きたいと思っていたネタ「股のぞきしてたら金さんが見えて、体を起こすと薬売りの姿」で始まる物語を、ようやく仕上げることができ感無量です。え、わからなかった?…そいつはオイラの力不足。。。←こうして自分でも自覚してるあたり、救われませぬ。くはぁ。


「土地のいさかいがモノノ怪を生む」というネタは、去年の秋頃からありました。でも、土地問題はリアルすぎて難しいし重くなっちゃうし、めんどくさい。そんなある日、通勤バスからぼんやり外をながめつつ「土地は法律で所有権があるけど、空はどうかなぁ」「地下何メートルとか日照権とか大気汚染の目安はあるけど、具体的に自分の頭の上がどこまで自分のとか決められないよなぁ」などばくぜんと考えてました。


そして「もし空を自分のだと主張したかったらどんな目印を立てるかな?…やっぱ凧を飛ばすかな」とゆう、つまらない妄想をきっかけに話のプロットと相成りました。異様にくだらなかったので、これ形になるかなー、と自分でもギモンに思いつつ、放ったらかし。


今年(09年)になって、Youtubeサーフィンしてる時に、エッシャーなどの騙し絵作品を集めた、スライド動画を見かけました。マイフェイバーのマグリット目当てで見てみたら(彼の絵は殆どなかったけど)面白くて、つい最後まで見入っていました。たしか半分以上が、作者名のわからない現代の騙し絵作家の作品でした。そのなかに「凧糸が空で凧じゃなくて神様につながっている」みたいな絵がありました。なる、傀儡(くぐつ)っぽいわ。


そして、話のシナリオができました(お手軽発想サーセン)。その後、富山の薬売りについてネットでいろんな情報を見かける機会があって、帖面のネタなど細部が煮詰まって、完成にこぎつけたというわけです。


やっぱり舞台は、都市ではなくムラです。モノノ怪のおかげで、私は、自分のルーツについて深く考えるようになりました。私は地方出身で、そのなかでもいわゆる「よそもの」で、ややこしさを今まで逃げこそすれ、深く考えたことがなかったのです。今は少しだけわかるようになったので、そのあたりを書きたい気持ちが強いです。


あとは、江戸について描く人は多いので、江戸よりもいっそどこだかわからんムラについて昔話みたいに描くほうが楽ですね。(結局それかい!)すみません。いい加減でよいとか簡単だということではありませんが。


では、「凧」に託したものについて。


過去は、今を生きる人の記憶を通じて、受け継がれます。逆にいうと、今在る人の現在は、過去との繋がりのうえに存在するわけです。


おそらく、凧は過去であり、人々の悔やむ思いの強さが、凧による支配、傀儡です。凧そのものは斬れません。薬売りの剣も届かない。だから飛ばしてしまいましたが、こういうことは、自分でも、シナリオを組んで初めて知ります。話をつくるということは、自分でも気付かないことを、作ってる途中にわかってくるので面白いですね。


凧は、神さまの象徴でもあります。既に起きた出来事は変えられないということで、、人の手に届かぬ不可侵なものだからです。前述の騙し絵は、そんな風に語っているようにみえたのです。そして物語ができたというわけです。


じゃ、行商とお軽の恋バナうんぬんは何処から?うーん、じつはこのふたつは別のシナリオでした。。


なんか、書いてるうちにドッキングしてた。行き当たりばったりですが、いちおうはモノノ怪の成立を補助する役目で置いています。私のモノノ怪は、相変わらず動機も存在感も弱いので、悩む人を増やせば、いいかなと…(安易)


薬売りが出会う女は「煙々羅」で、ただのアヤカシです。病床にある屋敷の一人娘、お軽の、生霊みたいなものです。お軽が倒れてしまった時点で、記憶が止まっています。


実は、生きている人に姿が見えないように、煙々羅にも、生きている人の姿が見えません。凧しか見えていないのです。時を超えた存在なので、時がどれくらい経過したかなども考えません。ですので、屋敷の内外では、日々の営みがあり、人の出入りもそこそこあるのですが、煙々羅は気づきません。父の姿も見えず、自分は元気?に動き回っているので、都合いいように脳内解釈して、さも呪いのように語ったのです。


それでは、モノノ怪の「名」は結局なんだったのかといいますと、一応「傀儡」と「煙々羅」。「真」はそれぞれの過去、「理」はそれぞれの後悔と、兄弟、親子のあいだのわだかまりということになりますか。


煙々羅のお軽さんが、真相を知って、「理」が確定して、全部出揃う、といったぐあい。わだかまりを捨てないと、ほんとうに凧は追っ払えないよ。薬売りは最後に、父親さんにそう釘を刺します。あなた次第ですよ、と。原因はイレギュラーな遺言を残した、お祖父さんにもあるんですがね。すみません、こんなの本文で説明し切れていません。自分でも小説というより説明文だなーと思います。


モノノ怪の「名」はともかくとして、この物語の題名は「凧」以外にありえないので、モノノ怪も「凧」でもいいです。斬ってないけど。吊った糸に蜘蛛がしがみつくイメージで、有名な「蜘蛛の糸」を暗示したかったのですが、ラストで余計な文章をつけ加えるにとどまりました。


解説まで、しかもここまで丁寧にお目通しいただき、誠に有難うございました。少しでもお楽しみいただければ幸いです。


書きたいことがぜんぶ書けてしまったので、次に小説が書けるのは、いつになるやら。私自身が、いちばん読みたいです。むろん自分のに限らず、モノノ怪の物語が書き継がれて絶えないことを願っています。
…これって、人類の悩みが尽きないことを願うようなもんか?(笑)